時事
倒産5,346件・人件費が原因の倒産は2.4倍|現金が尽きる日の逆算
2026年上半期の全国企業倒産は5,346件で12年ぶりに5,000件超、7月も1,028件。人件費高騰による倒産は前年比2.4倍(7月単月は2.1倍で過去最多)です。そこへ10月の最低賃金+55円が重なります。東京商工リサーチの集計を、件数ではなく「現金が尽きるまでの時間軸」に翻訳しました。
結論:倒産は「赤字」ではなく「現金が尽きた日」に起きる——2026年は人件費が引き金になっている
2026年上半期(1〜6月)の全国企業倒産は5,346件で、5年連続の増加。12年ぶりに5,000件を超えました。7月単月も1,028件と2ヶ月連続で1,000件を上回っています(東京商工リサーチ調べ)。
数字そのものより重要なのは内訳です。「人手不足」を理由とする倒産のうち、人件費高騰によるものが上半期で前年同期の2.4倍、7月単月では2.1倍で過去最多になりました。
そして10月1日前後から、最低賃金がさらに+55円(全国加重平均1,176円)上がります。人件費が引き金の倒産が過去最多という状態のまま、人件費がもう一段上がる——これが2026年後半の資金繰りが置かれている状況です。
30秒セルフチェック:引き金は自社にもありますか?
- □ 10月の最低賃金改定で月いくら人件費が増えるか試算した
- □ 増えた分を価格転嫁する告知の日付を決めた
- □ 主要な売掛先の入金サイトと、直近3ヶ月の遅延の有無を確認した
- □ 支払いが集中する月末に、口座残高がいくら残るか日付単位で並べた
- □ 現金が尽きる日を計算した(残高 ÷ 月次の純流出)
2026年の倒産データ(東京商工リサーチ)
全体
| 期間 | 件数 | 前年比 | 負債総額 |
|---|---|---|---|
| 2026年上半期(1〜6月) | 5,346件 | +7.1%(5年連続増) | 7,340億8,200万円(+6.3%) |
| 2026年7月 | 1,028件 | +6.9%(2ヶ月連続1,000件超) | 2,363億1,200万円(+41.4%) |
上半期の5,000件超えは12年ぶり、7月単月は13年ぶりの高水準です。
産業別(2026年上半期・8産業で前年同期を上回る)
| 産業 | 件数 | 前年同期比 | 備考 |
|---|---|---|---|
| サービス業他 | 1,819件 | +7.1% | 1997年以降の30年間で最多 |
| 建設業 | 1,026件 | +5.8% | 2014年以来12年ぶりに1,000件超 |
| 小売業 | 604件 | +10.2% | 5年連続増 |
| 情報通信業 | 254件 | +16.5% | 5年連続増 |
| 農・林・漁・鉱業 | 73件 | +21.6% | 5年連続増 |
「人手不足」倒産の内訳
| 区分 | 2026年上半期 | 2026年7月 |
|---|---|---|
| 人手不足倒産(合計) | 237件(+37.7%) | 63件(前年同月45件・月間最多) |
| うち人件費高騰 | 120件(前年比2.4倍) | 36件(前年17件・2.1倍・過去最多) |
| うち従業員退職 | — | 19件(前年11件) |
| うち求人難 | — | 8件(前年17件) |
出典: 東京商工リサーチ「2026年上半期(1-6月)の全国企業倒産5,346件」「2026年7月の全国企業倒産1,028件」および同社の人手不足倒産集計
この数字を資金繰りの言葉に翻訳する
倒産統計は「何件だったか」で報じられますが、経営の現場で意味を持つのはそこに至るまでの時間軸です。人件費が原因の倒産は、次の順番で起きます。
| 段階 | 何が起きるか | 期間の目安 |
|---|---|---|
| ① 改定 | 最低賃金が発効し、翌月の給与から人件費が増える | 10月〜 |
| ② 連動増 | 社会保険料・割増賃金の単価も上がる。実負担は直接分の1.1〜1.2倍 | 10月〜 |
| ③ 自己資金で吸収 | 値上げが決まらず、差額を手元資金で埋める | 10〜12月 |
| ④ 他の支払いと重なる | 11月の予定納税第2期・12月の賞与・年末の仕入れ | 11〜12月 |
| ⑤ 現金が尽きる | 赤字ではないのに支払いができなくなる | 年末〜年明け |
注目すべきは③です。 ここは「経営判断で回避できる区間」であり、同時に最も見逃されやすい区間でもあります。月3〜5万円の増加は単月では吸収できてしまうため、危険が数字に見えるのは④と重なった後になります。
利益が出ているのに現金が尽きる仕組みは黒字倒産の共通点、自社に出ている兆候の見方は危ないときに出る10の兆候で整理しています。
数値例:パート10人の小売店が、10月から年末までにどうなるか
パート・アルバイト10人(平均月80時間)の小売店で、対象者全員の時給が目安どおり55円上がるケースを、月次の現金の動きで追います。
10月: 人件費の直接増は 55円×80時間×10人=月44,000円。社会保険料・割増賃金の連動を含めると月5万円前後。単月では吸収できます。
11月: 人件費増が2ヶ月目(累計10万円)。ここに個人事業主なら予定納税第2期(11/30)が乗ります。前年の所得を基準に算出されるため、今年の資金繰りとは無関係に金額が決まるのが厄介な点です。
12月: 人件費増が3ヶ月目(累計15万円)。冬季賞与・年末仕入れ・外注費の支払いが集中します。値上げを10月に始めていた場合、転嫁が効き始めるのがこの月です。10月に始めていなければ、まだ1円も回収できていません。
年明け: 累計の持ち出しは20万円前後。額としては大きくありませんが、問題はこれが毎月続く恒常コストである点です。翌年度も引き上げがあれば、その上に積み上がります。
つまり、致命傷になるのは1回の55円ではなく「転嫁できないまま数年積み上がった状態」です。 上半期に人件費高騰倒産が2.4倍になったのは、この積み上がりが限界に達した会社が一斉に出たと読むのが自然です。
業種別に見る、2026年後半のリスク
倒産件数の伸びと、当サイトが扱う資金繰りの型を重ねると次のようになります。
| 業種 | 2026年上半期の状況 | 資金繰り上の急所 |
|---|---|---|
| 建設業 | 1,026件・12年ぶりに1,000件超 | 元請の支払いサイトが長く、元請倒産の影響を直接受ける |
| サービス業他 | 1,819件・30年で最多 | 人件費比率が高く、最低賃金改定の影響が最も大きい |
| 小売業 | 604件・+10.2% | 仕入れの前払いと売上の入金にズレ。年末在庫で現金が寝る |
| 情報通信業 | 254件・+16.5% | 受託開発は入金サイトが60日以上になりやすい |
| 農・林・漁・鉱業 | 73件・+21.6% | 季節性が強く、漁業など収入の谷が構造的 |
現金が尽きる前にできること
1. 「現金が尽きる日」を計算する 残高 ÷ 月次の純流出額(出金−入金)で、あと何ヶ月かが出ます。この1つの数字だけは毎月更新してください。 損益より先に見るべき数字です。
2. 価格転嫁の告知日を先に決める 告知から浸透までは1〜3ヶ月。10月の改定に対して10月に告知すると、回収できるのは年末です。準備の手順は最低賃金2026年度改定と資金繰りの準備にまとめています。
3. 売掛先の与信を先に確認する 自社の資金繰りが締まる時期は、取引先も同じです。取引先の倒産で売掛金が飛ぶのが、いちばん避けられない形の連鎖です。兆候の見方は取引先が危ないと感じたら、飛びそうなときの動き方は取引先が倒産しそうを参照してください。
4. つなぎの手段を、必要になる前に比較しておく 転嫁が浸透するまでの期間は、構造的に現金が薄くなります。売掛金がある事業者は、売掛金の早期資金化を「転嫁が効くまでのつなぎ」として、使う前に条件を比較しておくと選択肢が残ります。追い込まれてから探すと条件が悪くなります。
よくある質問
2026年の内訳を見る限り、需要の減少よりコスト側の要因が目立ちます。人件費高騰による倒産が2.1〜2.4倍という数字は、「売れないから潰れる」ではなく「売れているがコストを転嫁できずに現金が尽きる」型が増えていることを示しています。売上があるのに倒れる仕組みは黒字倒産の共通点で整理しています。
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